小学校低学年に読ませたい「読書が好きになる本」を塾の先生たちが選んで紹介します
こぶとり
- 文:大川悦生
- 絵:太田耕士
- 出版社:ポプラ社
あらすじ
てんぐにこぶを取ってもらって大よろこびのおじいさん。
それをきいた隣のじいさんもさっそく出かけてみたが・・・。
おすすめポイント
こぶとりじいさんとしても有名なおはなしです。
主人公のおじいさんが登場し、そこに天狗が登場し、さらにもう一人のおじいさんが登場するパターンで、展開としては昔話によくある流れです。
最初のじいさんは良心的ないいじいさんで、まったく偶然に何らかの幸運に遭遇します。
そして、それを知ったもう一人のじいさん(だいたいは、欲張りだったりちょっと悪者風)が柳の下の2匹めのドジョウを狙うかのごとく、同じような行動を取りながらも、逆にひどい目にあう…
という教訓かな…と最初は思います。
ところが、この「こぶとり」は少し内容が異なります。
最初に登場するじいさんは、読んでいても特に良心的ないいじいさんとは思えません。
特徴として右のほっぺに大きなこぶがあるというだけです。
そのじいさんがある日、雨宿りをしたお堂で8人の天狗が酒を飲みながら、陽気に歌い、踊る様子に遭遇します。
最初は恐がっていたじいさんも、その歌の調子に釣られて、つい天狗たちの前に出ていって、一緒に歌い踊り始めます。
その様子を天狗たちが気に入り、また明日来てくれ…とじいさんと約束するのですが、その約束を破らないように念のため、とじいさんが大切にしていると思われた右のほっぺの大きなこぶを引きちぎって持っていきます。
ところが、これはただのこぶなので、当然じいさんにとっては大切なものなどではなく、むしろ大きなこぶがなくなって大喜びです。
それを知ったもう一人のじいさん…このじいさんは左のほっぺに大きなこぶがあるのですが、ならば自分もこぶを取ってもらおうと思い、最初のじいさんに聞いた通りにお堂に出かけていきます。
前日と同様に8人の天狗がまた歌い踊り始めましたが、約束したじいさんがまだ来ないことに気づきます。
そこで、タイミングを見計らって左にこぶのあるじいさんが出ていくのですが、このじいさんは最初のじいさんと違って歌や踊りがあまり好きではありませんでした。
その結果、逆に天狗たちを怒らせる結果となってしまいます。
そして怒った天狗に、最初のじいさんから取ったこぶを右のほっぺにつけられてしまいます。
結果的には2匹めのドジョウを狙って逆の結果になってしまったわけですが、よくあるパターンと異なるのは、最初のじいさんも二番目のじいさんも、特に悪者ではありません。
むしろ、二番目の左ほっぺにこぶのあるじいさんの方が「真面目」かもしれないと思えます。
そして最初のじいさんも、確かに何かを期待したわけでもなく行動した結果が偶然にもラッキーな結果になったにせよ、決して同情すべきほどに良心的ないいじいさんとも思えません。
「同じようにしたって、必ずしもいい結果にはなりませんよ。むしろ2匹めのドジョウを目論むとロクな結果になりませんよ」…というのがほとんどの場合の展開ですが、そのあたりがこの「こぶとり」は異なっています。
むしろ結果だけを見ると、二番目のじいさんは少々可哀想です。
きっと左ほっぺの大きなこぶに困っていたのでしょう。
それを取ってもらえるなら…という気持ちで、最初のじいさんから聞いた話を真似しただけです。
こうした結末を果たしてどう感じるか…それは人によって様々だと思います。
果たしてこの物語が言いたいことは、2匹めのドジョウを狙うといつの場合にもいいことはありませんよ…という教訓だけなのでしょうか?
昔話には、いかようにもとれる何とも奥深い要素があるので、お子さまとどんなことを感じたのか教え合うのも読み聞かせのポイントです。